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2025.05.19
コラム
植物が生み出した新しい「頑張る」という概念
「フィーカ(Fika)」という言葉を耳にする機会が増えています。これはスウェーデン語で「コーヒーブレイク」を意味する言葉ですが、単なる休憩する時間ではなく、人とのつながりを大切にしながらリフレッシュする時間のことを指します。仕事の合間にコーヒーを飲みながら雑談をすることで、より良い人間関係を築くことができる。こうした日常生活の中で「心の余白」といえる時間を大切にすることが、仕事の生産性を向上させる文化としてスウェーデン社会には根付いているようです。 飲み物でくつろぐ文化といえば、イギリスの紅茶が有名でしょう。英国貴族の1日は紅茶で始まり紅茶で終わると言われます。例えば飲む時間帯で呼び名が違い、目覚めの一杯は「モーニングティー」です。ベッドで寝間着のまま飲むことから「ベッドティー」とも言います。昼すぎの「アフタヌーンティー」は「午後の紅茶」として知られています。優雅な習慣のようですが、実は朝食と夕食の1日2食で生活をしていた彼らの空腹を満たすためのもので、スコーンなどと一緒に嗜まれていたそうです。 こうしたヨーロッパの文化は、日本人には憧れの存在でもあります。歴史的にも茶道は権力者に通じ、園芸は日本庭園や武家屋敷などが中心で、敷居が高いものでした。庶民には“井戸端会議”が精一杯だったのです。 昔は欧米風・ヨーロッパ風と一括りでしたが、今は地中海風や北欧風など地域のテイストに分かれています。またそれぞれの国別でも紹介され、バブルの頃は派手なイタリアンモダンが流行し、イングリッシュガーデンが人気になると女性誌には鮮やかな花に囲まれて紅茶を飲むシーンが掲載されていたものです。そんなまねごとをするだけでも、日本人は豊かにな気分になれたのです。
○心の豊かさを求める時代
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< 戦後日本人は、終身雇用を担保にその勤勉さを発揮して経済大国となりました。高度成長期は企業戦士と称えられ、バブル期は「24時間戦えますか」とのエールに応えて、大いに働きます。仕事で努力すること、頑張ることは当たり前のことであり、美徳ですらあったのです。事実、高品質のメイドインジャパンは国際市場を席捲し、世界第2位のGDPという結果も残していました。 しかしバブル崩壊以降の日本経済の低迷は長く、結果の出ない厳しい時が続きます。長時間労働やサービス残業はブラック企業と叩かれ、“ノルマ”は禁止用語となり“目標”と言い換えられます。頻繁に使われていた「頑張れ」という励ましはプレッシャーになり、ハラスメントで訴えられるまでになったのです。冗談も不適切か否かを判断して言わなければいけません。威勢の良い言葉は聞かれなくなりました。 一方で広く使われるようになったのが「スローライフ」「ロハス(LOHAS:Lifestyles of Health and Sustainability)」「エシカル」、冒頭であげフィーカ」といった、優しい言葉です。社会全体がこうした精神的なゆとりや環境への考慮を重視する価値感に変ってきているのでしょう。これは「甘え」や「ゆとり教育の弊害」といった問題ではないように思います。 つまり、働くことの価値感が変わってきているのです。長時間労働やストレスが、心身に悪影響を及ぼすことが表面化してきました。行政も働き方改革を促します。「ウェルビーイング(心身の健康)が基本」「サステナブルな働き方をめざそう」という考えに、働く価値を見出す人が増えているようです。 会社もこれまでのような雇用体系では社員は動かず、体力やメンタルヘルスが悪化すれば生産性も落ちてしまい、よい業績は残らないことが分かってきました。ましては人手不足で新規採用が難しい時代です。経営を安定させるには、離職率を減らして労働力を確保していかなければなりません。それには「豊かな心で働ける職場環境」が必要です。社員にとって次のことが向上する職場が理想であり、企業も求められていくと考えられます。 1番目はメンタルヘルスが向上する職場です。 過度なストレスを抱えながら働くことは、心身の健康に悪影響を及ぼします。適度な休憩を取り、心を落ち着ける時間を持つことで、仕事に対する集中力が増し、パフォーマンスの向上につながります。特に、職場での雑談や気軽なコミュニケーションは、ストレスの発散にもなり、チームの結束力を高める効果もあります。 2番目は創造性が向上する職場です。 リラックスした状態で仕事に取り組むことで、新しいアイデアが生まれやすくなります。短時間でもリフレッシュすることで、思考の幅が広がり、新たな発想やイノベーションを生み出しやすい環境が整うのです。 3番目は従業員の定着率が向上する職場です。 メンタルヘルスのケアや働きやすい環境を整えることで、社員が長く安心して働ける職場になります。結果として、離職率が下がり、人材の定着率が向上するというメリットがあります。優秀な人材が長く働き続ける企業は、競争力のある組織を維持し続ける企業でもあります。 このような職場環境を整えることが企業の命題となります。各社が具体的に行ったのは、人事面談を増やす、社内に音楽を流す、特別休暇を設ける、福利厚生を充実させるなどです。 その中で注目されたのが、私たちの植物をレンタルする「小さな森づくり」です。緑溢れるオフィスが働く人の心を豊かにするのです。植物はインテリアとして四季折々の季節感を演出するだけではありません。先ず、室内の空気をきれいにします。眠気や頭痛の原因となるCO2や有害物であるトルエンやキシレンといったVOC(揮発性有機化合物)を体内に吸収し、新鮮な酸素を室内に放出するのです。 次に、メンタルヘルスを改善する効果があります。よく知られているのは癒し効果、「不安」「怒り」といったマイナスの心理面を良くする効果です。その力で、ストレスフリーで豊かな心で働くオフィス環境を実現することができるのです。植物のメンタルヘルス改善効果について、私たちは千葉大学園芸学部と3年間研究を行い、科学的に立証しました。研究結果は「オフィス緑化が勤務者に与える影響」として、学会で論文発表しています。そのデータをもとに、お客様に最適なグリーンコーディネ―トを提案しています。 3年間にわたる産学連携研究において、今まで知られてなかった植物の力が明らかになりました。植物は「怒り」「不安」といったマイナスの心理面を改善する効果がありますが、それと正反対にある「活気」というプラスの心理面の数値も高くする力があることがわかりました。植物は働く人の活気を促す、つまりモチベーションをアップさせるのです。植物があることで、次のように人の心理面が変わっていくことが考えられます。 植物で職場が明るくなる →気軽に会話がうまれる →コミュニケーションがとれるようになる →人間関係がよくなる →ストレスがなくなる 。結果として「良い仕事をしよう!」というモチベーションのアップにつながるのです。会社に対するエンゲージメントも高まることでしょう。 この植物が生み出す「頑張る」が、現代の「頑張る」なのかもしれません。これまでの「頑張る」は限界に挑戦するというような精神論が強いものでした。植物の生み出す「頑張る」は、あくまでも自らがモチベーションを上げていく過程で生まれます。能動的な感情ですので「やらされている」感はなく、ストレスもプレッシャーもないのです。併せて、冒頭に述べたフィーカのような「心の豊かさ」を持って働くことが社員の健康や生産性を高め、働きやすい職場を創っていく。それが企業の成長にも貢献するのです。 植物は「頑張る」という死語になりかけた言葉に、新しい概念をあたえたように思います。