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2025.09.13
コラム
豊かな暮らしは、植物の声に耳を澄ますと聴こえてくる
東京大学の鈴木俊貴さんは、世界初の「動物言語学」という新分野を切り開いた革新的な研究者です。「現代社会のドリトル先生」と呼ばれる独特のキャラクターでも知られ、数々の賞を受賞する中、海外でも高い評価を受けています。
〇鳥とコミュニケーションがとれるなら植物とも
鈴木俊貴さんが人気となるきっかけは、鳥の言葉の研究です。テレビ番組でシジュウカラが特定の鳴き声を状況に応じて使い分ける様子、そしてそれが「言語」である可能性があるという発見が放送され反響を呼びました。「ヘビを見たときだけ鳴く“ジャージャー”声」や「集まれ!」という意味の「ヂヂヂヂ」など、シジュウカラの言語性を分かりやすく論理的に立証した点が注目されたのです。今年1月には著書『僕には鳥の言葉がわかる』が発売前から予約段階で既に重版決定、発売後は12万部を突破する大ヒットとなりました。一般向けにも、Pen誌の「今月読むべき1冊」に選ばれるなど文化誌やライフスタイルメディアでも肯定的に取り上げられています。海外でも非常に注目され、Newsweek Japanなど国際メディアにも「世界で初めて鳥の言葉を解読した男」「動物言語学という学問を打ち立てる提言者」と紹介されています。 鈴木さんの研究は、ヒト以外の動物がコミュニケーションをとり合い、「言語に近い構造」を持つことを示しました。つまり、他の生き物たちにも言葉があるかもしれない。それぞれの言葉を理解することができれば、鳥でも魚でも虫でも、コミュニケーションがとれる可能性はあるのです。 私たちの扱う植物は、真っ先にコミュニケーションをとるべき生き物でしょう。確かに植物は動物のように動かないし、鳴いたりもしません。故に、植物は「沈黙している」「コミュニケーションはとれないのでは」と思われがちです。しかし、植物とコュニケーションをとる研究は、世界中の学者たちの間で行われているのです。あまり知られてはいませんが、植物が振動(音)や化学物質、電気信号を通じて情報をやり取りしている研究が報告されています。いくつか紹介しましょう。 イタリアの植物神経生物学者ステファノ・マンクーゾ博士は、植物が根の先に“情報処理ネットワーク”を持ち、まるで脳のように働いていると提唱しています。彼の研究では、植物が「記憶」や「選択」すら行っていることが示唆されて、人間中心の価値観に一石を投じました。 また、オーストラリアのモニカ・ガリアーノ博士は、マメ科の植物が「条件反射」や「音への反応」を示すことを実験的に報告しています。例えば、水の流れる音を再現すると、植物の根がその音の方向に向かって成長しはじめるというのです。これは動物に見られる“学習”の初期段階にも似ていますね。 イギリスのガーデニング団体である英国王立園芸協会が、2009年に実施した「植物への読み聞かせによる成長実験」も興味深いものです。 この実験は植物に人の声を聞かせ、成長への影響を調査したものです。トマトが実験植物として選ばれました。トマトの苗に10人の参加者が文学作品や科学書など異なる分野の文章を朗読して聞かせ、茎の成長などを記録します。結果、女性の声で読み聞かせをされたトマトの成長は、男性の声よりも平均で1インチほど高くなることがわかりました。朗読者の中には、『種の起源』で知られる学者チャールズ・ダーウィンの子孫で、曾々孫にあたるサラ・ダーウィンさんが参加しています。彼女はご先祖様の『種の起源』をトマトに朗読して聞かせ、その成長効果が他の朗読者より高かったことも話題となりました。難しい学術書であっても、トマトは受け入れたようです。 日本でも、最近ドラマの主人公にもなった、明治時代の牧野富太郎博士が有名です。名前を付けた植物は1000以上といわれ、植物に溢れんばかりの愛情と心を通わせるような観察を生涯の仕事にしてきた先駆者です。 昭和の時代には植物を「対話すべき存在」とした理学博士がいました。1人目は植物同士で会話ができるとした三上晃氏。植物の葉を構成する葉緑素が半導体の性質をもっている事実から、トランシーバーやテレビと同じような仕組みが植物体内にもあるという理論を発表しています。2人目は電機式電光ニュースやマンモスTVなどの特許を持つ発明家でもある、橋本健氏。橋本氏は4Dメーカーという独自の機械を発明、植物との対話を公開し話題になりました。植物は記憶力や喜び・嫉妬・怒りなど多彩な感情を持っていると公言し、「植物には心がある」といった著書もあります。この橋本氏の研究は、テレビ番組で放送されたものが現在YouTubeにて確認できます。YouTubeの中で、タレントの明石家さんまさんがルス中に水をあげなかったサボテンに抱きつかれたという話は面白いですね。
〇植物とつながることで生活が豊かに」なる
そして最近の傾向として、こうした福利厚生を会社は「何故作ったのか」「どんな成果を期待しているのか」まで社内にも社外にも公表 現代の都市生活では、デジタルデバイスに囲まれた“人間同士”のやりとりが主となり、慢性的なストレスや孤独感が社会全体を覆っています。そんな今の時代だからこそ、鈴木さんの研究のように他の生き物との関係性が改めて問われているように思います。 中でも植物は、オフィスの観葉植物、ベランダの鉢、街路や公園の樹木など、植物は身近な存在で日常的につながっています。なにより重要なのは、「植物とつながる意識」が、人間の感性と生活を豊かにとしてきたという事実です。植物は、古くから人間にとっての「食料」であり「衣服の原料」として生活を支えてきました。歌に読まれ絵画に描かれ、文化を創りました。今改めて注目されているのは、そうした物理的な役割だけではありません。地球温暖化防止につながるCO2を吸収する環境問題、そして人間の心に癒しをあたえる、“静かな貢献”なのです。 植物とつながることで心が豊かになる、これはいまだ解明されていない、人間の心のメカニズムです。それを活用したのが園芸療法です。花に水をあげたり農作業をするなど、植物の世話をすることで病んでしまった患者の精神を回復させる治療法です。第2次世界大戦で精神的な傷を受けた兵士たちに適用され、成果をあげました。欧州では障がい者の問題と結びつき、園芸福祉という分野が生まれました。現代は老人ホームなどにおける高齢者の認知症予防などにも応用されています。 同じ生き物を使った療法にペット療法があります。ペットの可愛いらしさに心がいやされるのですが、園芸療法と最も違うのが働きかけた時の反応です。ペットは、尻尾を振るなど動的かつ急激に反応します。しかし、心身に障がいのある方や高齢の方は、急激な変化に拒否反応を示す場合もあります。そうした方の時間の流れは緩やかで、ゆっくりでいいのです。そこで植物です。植物はあなたが家に帰っても、ペットのように駆け寄ってはきません。甘えてくることもありません。静かにあなたを出迎えてくれる、それだけでいいのです。 植物の成長を観察する時間はゆるやかです。新芽の息吹や花の開花はいつくるかわからないので、五感を研ぎまして毎日を送るようになります。それに気づいたとき、心は自然と季節に寄り添うことができるのでしょう。そうなれば、「水が足りてない」「日当たりを良くしてほしい」といった植物からのメッセージがわかり、枯らすこともないのでしょう。植物のある生活は、こんなにも豊かなのです。 植物と話をする日は、そう遠い未来でははないのかもしれません。植物の“声”に耳を澄ませたとき、辱物はどんなことを話しているのでしょうか。グリーン・ポケットの植物からはじめてみてください。